技術コラム「『結婚』を中心として、いろいろなことを計算してみる(仮称)」に対する批判コメント


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参考文献一覧


本ページは、本コラムの著者である江端智一が、当該コラムについて頂いた批判コメントを、可能な限りAS ISで転載させて頂くものです。

特段の記載がない限り、江端智一は本ページの批判コメントを、理解し、認定しているものとします。

本ページの目的は以下の通りです。

理由は以下の通りです。 私(江端智一)は、可能な限り、最大の努力と善意で、正しくウソのない著作の作成を目指しておりますが、そのような瑕疵なきを保証し得ません。

技術分野の誤った知識の流布は、皆さんの不測の不利益となります。

一方、それを恐れるあまり、「何もしない」というのは、私の思いに反します。

そこで、これらの、利益・不利益の調和点として、「原文そのまま」「批判コメント全開示」という方法を案出致しました。

当面、この方法による運用を続けさせて頂きたいと思っております。

何卒、ご理解、ご協力を頂けますよう、よろしくお願い致します。



なお、「ほんの一部」の読者の方へ申し上げたいこと(「3.16メッセージ」)があります。

私の人格と著作の品位を踏みにじる最低最悪の罵詈雑言のメッセージを投げつけてきた「あなた」に伺いたい

また、全ての読者の皆さまに、お願いしたいこと(「4.13メッセージ」)があります。

江端が作り出してしまった「誤った情報」の流布を止めて頂けますよう、ご協力の程、よろしくお願い致します。


なお、本コラムの執筆の為に作成したプログラムとエクセルファイルを開示しています。

(到底、役に立つとは思えませんが、ご希望があれば)自由に使って下さい。コンパイル等は自力でがんばって下さい。パラメータやグラフの意味などについて分からないことが多数出てくると思いますが、質問は受けつけませんので、悪しからずご了承下さい。

著作権その他の権利について、私は権利行使を行いませんが、これらによって発生した事故や損害については、100%ご自分で責任を負って下さい。


2013年9月26日(水) 江端智一


自己紹介(その1)

初めてメールさせていただきます。日本で医師として働いているものです。

今回は匿名希望でお願い致します。

「出産させないシステムが完成した日本〜破滅衝動=結婚をなぜ越えられないのか?」を読ませていただきました。論旨等に関して批判するつもりはないのですが一点だけ疑問があります。よかったら教えてください。

江端のコラムについての疑問点

気にかかったのは以下の記載です。

『なぜこのようなことが起こるかというと、染色体が2つあるためです。卵子に入れる染色体は1つだけです(減数分裂)ので、染色体は「相手を蹴飛ばしても、自分が卵子に残りたい」と思いますが、まだ卵子が十分な個数残っている時は、染色体も焦りません。子どもはまだ何人か産まれる可能性があるからです。

しかし閉経近くになってくると、2つの染色体は、争って卵子に残ろうとして、ここで染色体異常が発生してしまうのです。』

私の理解について

私の理解では、

女性の高齢化に伴う染色体異常の理由は減数分裂が出生児に途中まで進行しておりその後年齢を経るにしたがって放射線や化学物質などの変異源の影響が蓄積していった結果からおきるものだと理解しています。(これに対し男性では精子はは新しく作られては排出されるので比較的劣化が少ない。)

さらに正確に言えば調べた限りでは細かい機序は学会レベルでも未知であると思います。そもそも染色体に意思があるわけないですし焦るというようなこともあり得ないと思います。

私の疑問点とお願いについて

比喩ならともかく、

染色体異常が起きている状態を説明する場合において、そのような記述をするのは問題があるのではないでしょうか?

なにか根拠となるような文献や教科書の記述があるようでしたら教えていただきたいです。

私の感想、その他について

論旨は私も賛成点が多くあるので、

このような誤った(と私からは考えられる)記述があるだけで読まれる機会を失う可能性があってはもったいないと思い失礼を承知でメールさせていただきました。

ご返答いただけましたら幸いです。


自己紹介(その2)

以前、江端さんの日記に関してメールさせていただいた"mori"と申します。

私の疑問について

私の理解では、

女性の卵子に係る減数分裂は、女性が母の胎内で卵巣が形成される過程で行われ、生まれた後は行われないはずです。生理が始まってからは、単に減数分裂がすんだ遺伝子を、卵子として排卵しているはずです。女性が加齢すると卵子の染色体異常が増加するのは事実のようですが、その理由は染色体の争いというのは、初めて読みました。

と思っていたのですが、調べてみたところ、卵子のもととなる細胞は胎内でつくられるが、減数分裂は完成しないで、成人後排卵時にDNAは分かれるようです。

お願い

今回の「出産させないシステムが完成した日本〜破滅衝動=結婚をなぜ越えられないのか?」ですが、概ね賛成しますが、女性の卵子の記述について、若干疑問が残りますので教えて頂きたくお願い致します。

江端からの回答

詳細なメールを頂戴し、誠にありがとうございました。

頂いた内容について、可能な限り詳細にお答えしたいと思います。

出展について

本記載の出典は、

「デザイナー・ベイビー(ロジャー・ゴスデン著、堤理華訳)の、p.250〜252の記載です。

P.249に「高齢の母親に染色体異常がおこりやすい理由については、驚くほど判っていない部分が多い」との前書きの後で、今回採用した内容が展開されております。

この記載を採用した理由

私が、この論を採用したのは「囚人のジレンマ」という、私にとって親しみやすいゲーム理論の話で展開されていた為です。

『「囚人のジレンマ」は、自然界の協力的、利他的な作用を説明する時にも用いられる』、とあり、女性の高齢化に伴う染色体異常の理由を説明するのに、私の知識と読者への理解としては、好適と考えました。

卵子のもととなる細胞は胎内でつくられるが、減数分裂は完成しないで、成人後排卵時にDNAは分かれることより、つまり染色体異常は排卵時に発生する、という理屈で、取り敢えず「筋は通っている」と考えました。

受精時において、染色体のクロスオーバが発生することで生命の多様性を維持しているという機能があるなら、当該「クロスオーバ」に相当する、本来の減数分裂では起きてはならない事象が、排卵時に(誤って)発生することは、ありえる話ではないか、と考えました。

(余談ですが、この「クロスオーバ」とか一定の確率で染色体異常を発生させる「キアズマ」は工学的最適解探索手法の一つである遺伝的アルゴリズム(Generic Algoritm:GA)においては必須の機能であり、私はこの最適探索手法の高速演算方式で、20年程前に特許出願をしております)。

この理論の苦しい点と、その乗り越え方

しかし、ここで「染色体に意思はない」という事実が立ちふざがります。

私もここでこの論の採用を躊躇したのは事実です。

しかし、ここに「利己的遺伝子(生物は遺伝子の乗り物である)」論では、自然選択や生物進化を遺伝子中心の視点で理解することが認容されています。遺伝子に意思がないのは明白であるのにも係わらず、です。

今回の私の記載では、卵巣が卵子の残存数を把握していると仮定した場合、同一固体内でも、遺伝子の競争→暴走→遺伝情報のエラーというのは、仮説としても無理のない(少くとも私にはすっと入ってくる)説として行けるのではないかと考えました。

江端の明かな瑕疵

ただ、この論は仮説の粋を出ていませんし、また多数派という訳でもないようです。

私のコラムの中で、この論を確定的に記載したのは、多くの人に誤解を与えたという点において、明らかな瑕疵であるということを認めます。

せめて「〜〜という説もある」程度に留めておくべきだったかもしれない、と、後悔しております。そもそも、私が、このロジャー・ゴスデンの説が有力な定説だと勘違いしていた点においても、批判されても良いと考えております。

その他

少々、話は飛びますが、

今回ご指導頂いた、「年齢を経るにしたがって放射線や化学物質などの変異源の影響が蓄積していった結果」というのも、また私には説得力のある仮説と思えます。

ただ、この説ですと、染色体異常の発生率は、住んでいる地域や、人種によって、もっと差異が出ても良いようにも思えます。

私がデータで調べた限り、染色体異常の発生時期とその確率は、それらの環境に依存することなく、概ね同じであるように思われ、これはこれで、なんとなく私には「しっくりこない」説であるのも、事実です。

最後になりますが

かかる詳細かつ丁寧なご指摘を頂けましたことを、心から感謝申し上げます。

今後も、引き続きご指導頂けますよう、お願い申し上げます。

2013年11月14日

江端智一


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