自宅/会社のPCやケータイなど論外

逮捕もされない!?ネット犯罪予告で成功する方法とは?

「警視庁HP」より
 こんにちは。江端智一と申します。ITネットワーク関係の仕事で食べているエンジニアです。このたび、技術ネタで書かせていただくことになりました。よろしくお願い致します。

 最近、ネット掲示板に犯罪予告を書き込んだ犯人が逮捕されるニュースが、頻繁に報じられています。私は、このようなことを行う理由には3つあるのではと考えています。

 (1)本気で犯罪を行い、逮捕されても構わないと考えている
 (2)このような書き込みを、洒落(しゃれ)で笑ってもらえると考えている
 (3)ネットワークでは本人を特定できないと考えている

 さて、今回は上記(1)(2)に関してはスコープ外として、(3)に関して、「ネットワークで本人が特定できないようにする方法」について検討してみたいと思います。

 ただし、この検討に際しては、以下を前提条件とします

 (1)犯罪予告の書き込みは、刑法222条の脅迫罪の対象となり、警察は捜査を開始できます。
 (2)警察は、その公権力を根拠に、電話会社やインターネットプロバイダに顧客情報の開示を命令できます。

<方法1:自宅/大学/会社のパソコンから書き込む>

 論外です。

 あなたやあなたの属する組織が、インターネットプロバイダと契約をしている以上、プロバイダは警察に対して、あなたの家や組織のホームルータのIPアドレスと、顧客情報を渡して、警察は契約時のあなたの住所等を特定します。1箸キ2時間もあれば足りるでしょう。

 あとは、書き込みの行われた時刻と、通信パケットの流れた時刻を照合し、パソコンに書き込みのログが残っていれば、物証も完璧。大学や会社では、すべての通信ログを記録するのが一般的です。裁判では、あなたの有罪判決は揺るがないでしょう。

<方法2:携帯電話から書き込む>

 これは、方法1よりもさらに簡単に特定できます。携帯電話の機種番号と、携帯会社があなたの携帯に付与しているIPアドレスを照合すれば足りるからです。

<方法3:ノートPCを使って、自宅以外の場所から書き込む>

 仮に、プロバイダにアクセスする場合、ログイン認証を行っていれば、アクセスログが残りますので、本人が特定できるに決まっています。「私が犯人です。私バカです」と言っているとしか思えません。

 うーむ、これでは、「世間を騒がして楽しみたい」というあなたの目的を、満足させることができません。この辺から、そろそろ本気を出して検討してみましょう。

<方法4:アクセス制限をしていない無線LANのアクセスポイントから侵入する>

 無線LANのアクセスポイントは、住宅街を歩いているだけで、軽く10台くらいは見つかります。この中には、アクセス制限をしていないものもあります。これを踏み台とする方法は、結構有効です。ただ、街の中で、立ちながらノートPCを操作する姿は目立つという欠点がありそうですが……。

 また、ネットワーク通信インターフェースの番号のことをMACアドレスといいますが、簡単に言うと「世界中のパソコン一台一台に付けられた唯一の番号」と思っていただいて結構です。アクセスポイントには、パソコンのMACアドレスを記録するものが多いですが、このMACアドレスがわかれば、パソコンメーカ、機種が特定できます。そこから、出荷された時期や場所が割り出せますので、あとは誰に売ったかを追跡すれば、あなたにたどりつくのは、時間の問題でしょう。

 加えて、書き込みの行われた時刻と、通信パケットの流れた時刻が照合されるのは必須ですので、完璧とはいいかねます。

 それでは、最後の手段をご提示しましょう。

<方法5:代理人(エージェント)にやらせる>

「あなた以外の誰かに犯罪予告を書き込んでもらう」ということですが、その人に警察に通報されたら終わりです。

 しかし、方法がないわけではありません。エージェントを使うのです。いや、スパイの話ではなくて、エージェントプログラムのことです。つまり、ある時刻になると、犯罪予告メッセージを自動的に書き込むプログラムを作成するのです。

 しかし、そのプログラムを、あなたの自宅PCや携帯で動かしても仕方ありません。アクセス制限をしていない無線LANのアクセスポイントを使用している、他人の家のパソコンに侵入するのがよさそうです。つまり、ITリテラシーの低い方が住む家が狙い目ということです。

 管理者パスワードが破れれば、パソコンへの侵入ができます。セキュリティ意識の低い人のパソコンであれば、「pass」とか「password」などの簡易なパスワードで破れる可能性が高いです。(ちなみに、パソコンへの侵入方法もパスワードクラックも、そんなに難しくないのですが、今回は割愛します)

あとはアリバイづくりだけ

 さて、パソコンを乗っ取った後は、ある時刻になったら動き出すエージェントプログラムをパソコンに送り込みます。あなたは、エージェントプログラムが起動する時刻に、アリバイを証明してくれる友達と、どこかで飲んでいればよいでしょう。

 ここで、「誰がそのエージェントプログラムをつくるのか?」が問題になります。

 もちろん、あなたです。

 さて、この方法を実施するには、最初に通信プロトコルについて勉強する必要があります。コンピュータアーキテクチャについての知識も必要になるでしょう。次に、犯罪予告を行う掲示板での処理シーケンスをリバースエンジニアリングして、エージェントプログラムに組み込みます。併せて、セキュリティソフトのスパイウェア機能も解除します。

 もちろん、「犯罪予告」メッセージを送信した後に、自動的に自己破壊命令を組み込むことも、忘れないようにしてくださいね。普通のファイル消去命令では、あとで復元できてしまいますので、偽のプログラムで上書きしてください。

5?10年勉強すれば大丈夫

 こうしてみると、結構なITスキルが必要になりそうです。そうですねえ……。ITの基礎知識のない人でも、5〜10年間くらい真面目に勉強すれば、なんとかなるかもしれません。

 最後に、整理してみましょう。

 (1)警察などの公権力に動ける口実を与えてしまえば、インターネット上での犯人捜しなんぞは、あなたが考えている以上に「チョロイ」です。

 (2)あなたが、警察の追跡をかいくぐってでも、自分が特定されないネット犯罪予告を行いたいのであれは、情報処理試験の「セキュリティスペシャリスト」「ネットワークスペシャリスト」に合格した上で、どこかのIT企業かSE会社で、通信プログラムを100〜200本も書いて経験を積めば大丈夫です

 (2)の勉強も仕事もやりたくない人は、悪いことは言いません、犯罪はやめておきなさい。あなたは、「犯罪予告の書き込み」をやるだけの、信念も覚悟もなければ、資質も能力もないのです。
(文=江端智一