江端さんのひとりごと 「愛の匍匐前進」 2003年9月10日 今日の昼休みに、研究所に消防署から地震体感車と煙体験テントの出張サー ビスが来ていたようで、折角なので参加してきました。 ま、地震車のほうは、こんなもんだろうと思ったのですが、煙体験テントの 方は・・・ このように恐しい思いをしたことは、久しくありませんでした。 - 視界0 - 呼吸不能 - 出口不明 白い煙に咽せながら、テントの中を孤りさまよっていたら、突然テントの中 が明るくなり、(もうすぐ出口だ)と安心していたら、実はそれがトリックの演 出で、どんなに進んでも出口が見付からず、真剣にパニックに陥りました。 # 消防士の兄ちゃんも、込んだ演出をするもんだ。 訓練テントでの、世界初の死亡者になるかと思いました。 こんなみっともない死に方をしたら、世間の笑いものです。 訓練用の煙は、一応有害成分を取り除いた安全なものらしいのですが、それ でもテントから脱出できなかったら、窒息はまぬがれないでしょう。 ほうほうの体でテントから出てきて私は、そのテントのメンテナンスをして いた消防士の兄ちゃんに喰ってかかりました。 江端 :「ビル火災で、あんな状態になったら、どうしたらいいんですか?」 兄ちゃん:「体勢をできるだけ低くして移動することですね」 江端 :「何も見えないんですよ!どこにどう向かえば良いんですか!!」 それを聞いた兄ちゃん。我意を得たりと応えました。 「ですから、非常口の確認が必要なんですよ」 確かにそれはそうだが、本当にそれだけだろうか。 最低でも、目をつぶったまま床にはいつくばりながら、非常口に辿りつく訓 練を、最低3回はしないと ----- 断言するけど、 絶対死ぬ ----- これからも、皆さんは、家族で旅館、民宿を利用するでしょうし、海外の宿 泊設備を利用して、仕事をしなければならないビジネスパーソンの方も沢山い るでしょう。 そして、ホテルなどを多く使っている若いカップルもいると思います。 彼または彼女と楽しいひとときの前、休憩の合間、後の3回、互いに手を繋 ぎあって、ホテルの廊下に這いつくばって避難訓練をするしかありません。 彼女 :「なんで、こんなところにきて、こんなことまで・・・」 あなた:「結婚する人がいなくなったら、僕が困るだろう」 彼女 :「・・・えっ?」 あなたの命を賭したプロポーズを、彼女が受けいれるのは間違いありません。 これぞ、まさしく、 愛の匍匐前進 ----- それはともかく。 この手の訓練をさせてくれる防災センターは、日本全国にあるようです。 一度、行ってみることをお勧めします。 絶対に非常口を確認する習慣がつくようになります。 ----- 最後になりましたが、麻生区消防署の消防士の皆様。 リアリティのある体感シミュレーションも結構ですが、それに伴う具体的な 対処方法も加えて御指導下さい。 『ああなったら死ぬしかないね』と当初の目的と正反対の達観に至った者が、 研究所に多数いましたことを、念の為、お知らせしておきます。 (本文章は、全文を掲載し、内容を一切変更せず、著者を明記する限りにおい て、自由に転載して頂いて構いません。)