江端さんのひとりごと 「物事の限度を形容する言葉」 「『塩辛い』と言っても、塩より辛くなることはないし、『甘い』と言って も砂糖より甘くなることはない」という喩えがあります。 物事には、自ずから限度がある、という意味で使われるそうです。 これが、本当は間違っていることを知ったのは、アメリカで生活を始めてか らです。 ----- ヒューレットパッカード社(と言うか、たいていのアメリカの会社では、そ うなのだろうが)では、誰かがプロジェクトに参加したり、あるいは退社する 時など、就業時間内にパーティをやります。 アイスクリームやケーキが、セルフサービス形式で提供されることが多いの ですが、その甘さたるや、 ハンマーで頭をぶん殴られるような甘さ あるいは、 口から火を吹くような甘さ と言っても過言ではありません。 #念のため。私はアルコールも嗜みますが、ケーキに関しても一言もつ者で #す。 事実、こちらに来てから、しばらくして、嫁さんが風邪をひいて伏せってい た時、私は近くのスーパーマーケットでシュークリームを買ってきたのですが、 そのシュークリームを食べ終えたのは、実に3日後。 家族3人総出で、朝、トーストにクリームを塗り、昼コーヒーにクリームを 浮べ、夜、デザートのフルーツにかけ、そうしてようやく消化し終えたのです。 ----- 今、私の目の前には、パーティ会場から持ち出した、一切れのケーキが、 2cm削りとられただけで置かれています。 これまで、2回、私はアメリカのケーキに敗退しており、今回のトライアル で3回目になりますが、帰宅予定時刻の18時までに、このたった一切れのケー キに勝つ見込みは、今回もかなり悲観的な状況にあるようです。 それにしても、どうやったら、こんな殺人的な甘さの生クリームを精製する ことができるんだ、この国は。 魔女が、大きな鍋に、秘伝の薬草を加えたクリームをかき混ぜながら、呪文 でも唱えているんじゃないか、と邪推してしまうほどです。 (本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにおいて、 転載して頂いて構いません。)