筆者あとがき



next up previous
Next: この文書について... Up: 一枚の絵 Previous: 第10章 Ending

筆者あとがき

登場人物の紹介をさせて頂きます。

本文中に出てくる「古田さん」こと古田聡さんは、私の大学時代の友人であると同時 に、私が困っているときに色々と助けてくれた恩人です。

彼の下宿は、私たちにとってなくてはならない空間でした。

どこで試験勉強をしたか。どこでレポートを書いたか。どこで腹がよじれるほど笑い 、どこで朝まで議論を交わしたか。 それは、京都北白川にある彼の下宿でした。

彼にとっては迷惑なこともたくさんあったと思いますが、4年に及ぶ長い期間、つい に私は彼が怒るところを見た事がありませんでした。

彼の大きなやさしさにもたれながら、私たちは素晴らしい時間を過ごす事が出来たの です。

試験前になると私はよく古田さんに解らないところを教えて貰いました。私が困り果 てて、試験前夜の深夜の4時でも5時にこわごわと彼の下宿に電話すると、必ず彼は眠 そうな声で、こういったものです。

「うん、丁度、今寝ようと思っていたところ。」

深夜にたたき起こされて、こういうことを言える人物が一体どれくらいいるのかは知 りませんが、私には絶対に出来ない事でした。

今回私が司会を引き受けた事で、百万分の一でもお返しが出来ればと思ったのですが 、返って迷惑をかけてしまったかもしれません。

「西村さん」こと旧姓西村香穂さんは、少し小柄な可愛い方です。写真などをよく見 てみると、古田さんによく似ているようにも見えます。快活な性格でいらっしゃるよう で、初めてお会いしたときから、私に親しく話かけることのできる明るい方でした。

しかし、気がつかせない風に見せているか、あるいは御自分でも気がついていないの かもしれませんが、この人は実に「鋭い」人のようです。渋谷で彼らと別れてから、 (なんか今日は楽に話ができたなあ)と思い気がついたのですが、西村さんは状況をす ばやく理解して、コミュニケーションができると言う非常に高度な技を自然に身につ けていらっしゃるようです。このような素晴らしい西村さん、もとい、古田さんの能 力は、今後の二人の結婚生活に大いに生きて行くのでしょう。

なにはともあれうらやましい限りです。

古田ご夫妻に、このエッセイ執筆のお許しをお願いしたところ、快諾して頂きました 。挙げ句の果てに校正チェックまでさせてしまったことを、この場を借りてお詫び申し 上げます。

古田ご夫妻にとっては、文章中にご不満な点も合ったかと思うのですが、何も言わず に公開を許可して下さいました。心から感謝申し上げます。

私にとって、比較的4、5ヶ月にも及び長い期間のことを書くのは始めてで、「江端 さんのひとりごと」の様には筆が進まないのに驚きました。現在の3倍の文章量になっ たとき、一度全文をボツにしました。テンポ重視の文章にするために、徹底的に削除し て修正を行いましたが、今はやりすぎたかな、と後悔しているところです。


私のような人生の中でも、時々はっとするような美しい瞬間がありますが、今でも、 古田夫妻が最後のエレベータから降りてくるときに、振り向いて見たときの「絵」は、 全てがこの瞬間の為にあったといっても良いほどの美しさでした。

それだけを書きたくて、このエッセイに挑みましたが、果たしてその望みはかなった のでしょうか?

----------------

最後に、やはり『お前、人の結婚式の世話が出来るほど余裕があるのか。自分のこと も少しは考えたらどうだ。』と言ってくれたあの友人。

彼こそ、真の友人ではなかっただろうか?と、思わずにはいられない最近の私です。

1993年9月20日

誰もいない週末の研究所にて

江端 智一


Tomoichi Ebata
Sun Feb 4 19:11:56 JST 1996