緑色の番号等は、江端の理解の為に記入したものであり、「シバタレポート」原文には記載のない事項です。

赤色または黒字の強調、太文字は、江端が江端の理解の為に、「シバタレポート」に独自に記載したものであり、ご著者の意図を反映したものではないことに御留意下さい。

また、江端が読み安くする為に改行等の挿入も行っております。

(上記は、シバタレポートご作成本人のご連絡で、即時かつ無条件に元の状態に復帰致します)

 

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江端智一様

 

原稿を受け取りました。さっそく拝見させていただきました。

無修正の生原稿を誰よりも先に拝読するチャンスをいただけると言うことは光栄なことです。

 

早速ですが、細かな点数点と、段落の内容で気になった点が1点ありました。

細かな点については、word文書に注釈をつけさせていただきました。些細な点ですので、後ほどご確認いただければと思います。

 

次に、段落の内容についてですが、これは次女様が震え上がったという「袋」の記述についてです

 

結論から言うと、「袋」の表現には問題点が2つあり、

1点目は意識のある可能性のある状態で袋詰めになることは考えにくいということ、

2点目は、救急隊が意識のある可能性のある肉体を袋詰めにする可能性があると公言することは、まずいのではないかという点です。

 

以下、根拠的な文章プラス救急隊についての話プラスアルファです。

 

肉体を診察・検視しての死亡の診断は、現段階で残念ながら(?)医師にしか認められていない行為です(特権と考えている人もいます・・・)

 

ので、肉体的に死亡が確定しても、法律的には死亡診断書が作成されるまでは生存(死亡未確定)の状態にあります。

 

というわけで、現場の判断で肉体の破片が袋もしくは段ボールに詰められることは、その場に検死官や救急救命士などの専門知識を持つ人間が、これは絶対に死亡しているに違いない、と判断した場合に限られます

 

これは、頭部が無い、脳が無い、かなり腐敗している、黒焦げ、といった状況です。これらの場合には袋詰めの可能性があります。

 

監察医がその場で検視して死亡診断となるか、監察医がいなければ積極的に蘇生行為をせず病院に肉体が(袋にまとめられて)運ばれ、そこで死亡診断となるか、いずれかだと思います。(場合によりその後に法医解剖へ進みます。)

 

四肢が無い、脳や腸が飛び出している、程度では、それが新鮮であれば死亡確定の判断を救急救命士レベルで行う可能性は極めて低いです(救急隊は救命のために最善と思われる処置を即座に始めるはずです)。

 

なぜなら、彼らには死亡の診断ができませんし、蘇生不可能の判断は、重大な責任問題を伴うからです。

 

交通事故の「意識不明の重体」や、「朝起きたら高齢の同居人が息をしていない」等といったケースでは、発見時にすでに肉体的な死亡が確定しているケースも多々ありますが、やはり病院に運ばれてきます。(最近は開業医による在宅での看取りも増えてきました。)

 

そして、医師が(儀式のように)蘇生処置をして(もしくはせずに)、蘇生不可能な状態であると確認後に、死亡を診断します

 

轢断死体の検案実務には立ち会ったことが無いので、実際には違った流れになるかもしれないのですが、やはり救急隊による蘇生不可能の判断にはこれでもかと過剰に慎重に判断される=意識のある可能性の残った状態で袋に詰められることはまず起こらないだろう、と思いました。

 

また、問題点2の捕捉ですが、「袋」の文章は、救急隊員が、意識のある可能性の残っている肉体(=患者=人格)を、救急隊の独自の判断で死体と判断し、モノとして扱った結果、治療の機会を失わせ、絶命させる可能性があると文章で公言している、と捕らえられる可能性があります。救急隊員とその家族、医療関係者が読んだ場合、また、一般市民が読んだ場合、それぞれにレベルの違いがあるかもしれませんが、江端様の想定や意図と違う解釈をされる可能性があります。

 

袋の話はシバタレポートから導かれたものというよりは独立した文章と見えましたので、私が口を出すのもどうか、とも思いました。また、自殺抑止のための物語文(ホラー)としては大変に有効とも思いました。しかし、救急隊員の名誉を考えると、やはりこの部分に関しては論説文の中の表現としては行き過ぎているように思いました。

 

いずれにしても、袋に収めないだけで、激痛と絶望の中で命の最後を迎えることには変わりがないということは言えるかと思います。

 

(余談ですが、現在、離島での看取りなどで限定的に看護師に死亡診断の権限を持たせる議論がある、と聞いたことがありますが、まだ法改正には至っていないはずです。また、例外としては長期行方不明者に対する失踪宣告のような場合には医師の診断無しに法律的な死亡が成立する場合もあります。)

 

毎度くどい文章となってしまい申し訳ありません、、、。

 

それでは、よろしくお願い申し上げます。